はじめに
「英語とプログラミング、習わせるならどっちがいいですか?」
現役のエンジニアとして働きながら小学生の息子を育てていると、周りの親御さんからこの質問を本当によく受けます。そしてこれは、我が家でも実際に妻と何度も話し合ったテーマです。
習い事に使えるお金と時間は有限です。英語もプログラミングも「これからの時代に必要」と言われますが、両方に通わせれば月謝は合計2〜3万円を超えることも珍しくありません。送り迎えの時間もかかりますし、子供の体力と気力にも限りがあります。
先に結論をお伝えすると、この問いに万人共通の正解はありません。ただし「何のために習わせるのか」という目的を決めれば、優先順位はかなりはっきり決まります。
この記事では、エンジニアの立場からプログラミングをひいきするのではなく、英語教育の価値も含めてできるだけ公平に、次の3点を整理します。
- 目的別(受験・将来の仕事・思考力)の優先順位フレーム
- 「AIが翻訳してくれる時代に英語は必要か」という問いへの、現場のエンジニアとしての本音
- 「両方は無理」な家庭のための、時期をずらすフェーズ分け案
まず前提を揃える — 英語もプログラミングも「学校で学ぶ教科」になった
比較の前に、それぞれが学校教育でどう位置づけられているかを押さえておきましょう。「習い事でやるかどうか」の判断は、「学校でどこまでやってくれるか」とセットで考える必要があるからです。
英語: 小3から必修、小5からは成績のつく「教科」に
2020年度から、小学校の英語教育は大きく変わりました。3・4年生では「外国語活動」として歌やゲームを通じて英語に親しみ(年間35時間)、5・6年生では「外国語」が正式な教科となり、検定教科書を使って「読む・書く」まで学び、通知表に成績がつきます(年間70時間)。中学・高校・大学入試まで、英語が主要科目であることは今後も変わりません。
プログラミング: 小学校で必修化、「情報I」は大学入学共通テストの出題教科に
一方のプログラミングも、2020年度から小学校で必修化されました。独立した教科ではなく、算数や理科の授業の中でプログラミング的思考を育てる形です。さらに2022年度からは高校で「情報I」が必履修科目となり、2025年1月の大学入学共通テストから「情報」が出題教科として加わりました。国立大学の多くは一般選抜でこの「情報」を課しています。詳しい経緯は子供のプログラミング教育の現状で解説しています。
つまり現在は、英語もプログラミングも「学校で学び、入試にも出る」対等な存在です。「英語は必須、プログラミングはおまけ」という数年前の感覚のままだと、判断を誤りやすいと感じています。
目的別の優先順位フレーム — 「何のため」で答えが変わる
我が家で話し合ったとき、いちばん効果があったのは「そもそも何のために習わせたいんだっけ?」を先に言葉にすることでした。目的別に整理すると、優先順位は次のようになります。
| 目的 | 優先度が高いのは | 理由 |
|---|---|---|
| 中学受験・高校受験 | 英語 | 入試での配点が大きく、積み上げ型で先行の効果が出やすい |
| 大学受験(特に国公立) | やや英語、ただし情報Iも無視できない | 英語の配点は依然大きいが、共通テスト「情報」も加わった |
| 将来の仕事の選択肢 | 引き分け(子供の興味で決める) | どちらも武器になるが、掛け算でこそ価値が出る |
| 思考力・学び方の土台 | プログラミング | 論理的に分解して考える力は全教科・全職種に波及する |
| 海外経験・異文化理解 | 英語 | 人と直接つながる経験はAI翻訳では代替しにくい |
それぞれ、もう少し詳しく見ていきます。
受験を最優先するなら: 英語が先
正直にお伝えすると、受験だけを考えるなら英語の優先度が高いです。中学・高校・大学と、どの段階の入試でも英語の配点は大きく、単語や文法の積み上げがものを言う教科なので、早く始めた分だけ後がラクになります。
共通テストに「情報」が加わったとはいえ、配点の比重ではまだ英語に及びません。「受験で困らないように」が習い事のいちばんの目的なら、英語を軸に据えるのが合理的です。ここはエンジニアの私でも異論はありません。
将来の仕事を考えるなら: 引き分け。決め手は「子供がどちらに食いつくか」
「将来AIやITの仕事に就くならプログラミング」と思われがちですが、実際のIT業界では英語力も同じくらい重要です。最新の技術ドキュメントの多くは英語ですし、海外のエンジニアと協働する場面も増えています。私自身、仕事で英語を読まない日はありません。
逆に、英語だけできても差別化しにくい時代になりました。「英語×プログラミング」「英語×専門分野」のように、掛け算で使える人が強いというのが現場の実感です。
だからこの目的の場合、順番はどちらでも構いません。決め手にすべきは子供本人がどちらに食いつくかです。習い事は続かなければ意味がないので、体験レッスンに両方連れて行って、目の輝きが違うほうから始めるのが、遠回りに見えていちばんの近道です。
思考力の土台を作りたいなら: プログラミングが先
「地頭を鍛えたい」「自分で考えられる子になってほしい」が目的なら、プログラミングを優先する価値があります。
プログラミングで身につくのは、コードを書く技術そのものよりも、大きな問題を小さく分解し、順序立てて考え、うまくいかなければ原因を探して直すという思考の型です。これは算数の文章題にも、作文にも、そして英語学習の計画づくりにも効いてくる、いわば「学び方のOS」のようなものです。
英語が「話す相手とつながるためのスキル」だとすれば、プログラミング的思考は「あらゆる学びの土台になる考え方」。性質が違うからこそ、思考力を目的にするならプログラミングに分があると考えています。この点はAI時代に子供がプログラミングを学ぶ意味で、実例を交えて詳しく書きました。
「AIが翻訳してくれるから英語は不要」は本当か — エンジニアの本音
このテーマで最近いちばんよく聞かれるのがこの質問です。翻訳AIの精度は確かに驚くほど上がりました。ではもう英語を学ぶ必要はないのでしょうか。
結論: 「情報を読むための英語」の価値は下がり、「人とつながるための英語」の価値は残る
現場の実感として、英語の価値がゼロになることはありません。ただし、英語の中でも価値が下がる部分と残る部分がはっきり分かれてきた、というのが正確なところです。
- 価値が下がりつつある部分: 書かれた文章を読む・書くだけの英語。これはAI翻訳がかなり肩代わりしてくれます
- 価値が残る部分: その場で人と信頼関係を築く会話、相手の文化を理解した上でのコミュニケーション、英語で考えて即座に反応する力
つまり「英語はもう不要」ではなく、「英語を学ぶ目的が“試験のための読み書き”から“人とつながる力”に移りつつある」というのが本音です。子供が将来、海外の友人や同僚と対等に付き合う姿を望むなら、英語学習の価値は今も十分にあります。
一方でプログラミングは「AIに指示を出す側」に回るための素養に
「AIがコードを書いてくれるならプログラミングも不要では?」という疑問も、同じ構造で答えられます。AIがコードを書く時代に価値が上がっているのは、何を作るべきかを定義し、AIに的確に指示を出し、出てきた結果が正しいか判断する力です。その土台になるのが、プログラミングを通じて身につく論理的思考です。
まとめると、AI時代の習い事選びは「AIに代替される部分を避け、AIを使いこなす側に回る力を育てる」という視点で考えるのが良い、というのが私の意見です。英語もプログラミングも、その視点で選び直す価値があります。
「両方は無理」な家庭のためのフェーズ分け案
ここまで読んで「結局どっちも大事なんでしょう? でもうちは両方は無理」と感じた方も多いと思います。我が家も同じでした。そこでおすすめしたいのが、**同時に両方やるのではなく、時期をずらして順番にやる「フェーズ分け」**です。
案A: 低学年は英語 → 中学年からプログラミングに切り替え
| 時期 | 習い事 | ねらい |
|---|---|---|
| 年長〜小2 | 英語 | 耳が柔らかい時期に音とリズムに慣れる。遊び感覚でOK |
| 小3〜小6 | プログラミング | 論理的に考える力が伸びる時期に思考の型を作る |
| 中学以降 | 英語(学校+自宅学習) | 小さい頃の貯金を土台に、教科としての英語へ接続 |
英語の音への慣れは早い時期のほうがつけやすい一方、プログラミングは「順序立てて考える」認知的な成熟がある程度必要で、小3前後から始めても遅くありません。発達の順序に合わせた、いちばんバランスの良い案だと思います。
案B: まずプログラミング → 高学年で英語を上乗せ
| 時期 | 習い事 | ねらい |
|---|---|---|
| 小1〜小4 | プログラミング | ゲーム感覚で学べるうちに「学ぶのは楽しい」体験と思考の型を作る |
| 小5〜中学 | 英語 | 教科化・入試を見据えて本格的に開始。学び方の土台がある分、伸びやすい |
子供がゲームやものづくりに強い興味を示しているなら、その熱があるうちにプログラミングから入る案です。「好きなことで学ぶ楽しさを知った子は、他の教科の学びも速い」というのは、息子を見ていて実感していることです。
フェーズ分けの共通ルール
どちらの案でも、次の3つを意識すると失敗しにくくなります。
- やらない側を「ゼロ」にしない。英語なら英語の歌や動画、プログラミングなら無料のScratchなど、家庭で月0円でも触れ続ける手段はあります
- 切り替えのタイミングは学年ではなく子供の様子で決める。飽きてきた・物足りなさそう、が切り替えのサインです
- 教室選びは焦らない。特にプログラミング教室は内容の幅が広いので、スクール選びのポイントを押さえた上で、複数の体験会を回るのがおすすめです
まとめ — 「どっちか」ではなく「どっちが先か」で考える
最後に、この記事の要点をまとめます。
- 英語もプログラミングも、いまや学校で学び入試にも出る対等な存在。どちらかが「おまけ」ではありません
- 優先順位は目的で決まる。受験なら英語、思考力の土台ならプログラミング、将来の仕事なら子供の興味で選ぶ
- AI時代に価値が残るのは「人とつながるための英語」と「AIに指示を出す側に回るための論理的思考」。どちらも学ぶ意味は失われていません
- 両方は無理でも大丈夫。時期をずらすフェーズ分けなら、家計と子供の負担を抑えて両方に触れさせられます
英語とプログラミングは、敵同士ではなく掛け算の関係です。「どっちを取るか」ではなく「どっちを先にやるか」と捉え直すだけで、習い事選びの悩みはずっと軽くなります。
プログラミングを先に始める場合のスクール選びは、比較ポイント5つやタイプ別のおすすめも参考にしてみてください。この記事が、ご家庭での話し合いの材料になれば嬉しいです。